| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB3-058 (Poster presentation)
東アジアの干潟域に普遍的に出現するHemigrapsus takanoi(以下、本種)は、1994年のフランス・ビスケー湾での発見を端緒に欧州北部沿岸域で続々と発見され、当地での在来ベントスとの種間関係が懸念されている。ビスケー湾での発見前年の1993年には、当時欧州と日本(東京、大阪、神戸)・韓国(釜山)間を定期的に行き来していた自動車運搬船の船体付着物をドイツ北岸で調査した際に、本種の幼若個体が生きたまま採集されていた。そのため国際航路の船舶が欧州における本種創始者集団のベクターであると考えられている。この具体的な指摘を分子生態学的に検討した研究はないが、国際データベース上には、ビスケー湾で採集された本種個体のミトコンドリアDNA・16SrDNAの塩基配列が1件登録されている。この登録配列を利用して本種欧州集団の由来を特定できないかと考え、日本と近隣諸国から得た本種について、同じ遺伝子領域の塩基配列を決定し、また新たに採集したオランダ産の本種個体でも同様の解析を行った。その結果、欧州サンプルからは3タイプの配列が得られ、その全てが本種日本集団からも得られた。そのうち1タイプ(HT002)は日本国内全ての採集地点から得られたが、他の2タイプ(HT001とHT003)の出現は本州および四国太平洋沿岸域に限られた。前述のビスケー湾産個体の配列はHT003と完全一致した。日本最大の貿易港であり、船舶国際貨物の4割をさばく東京湾のサンプルからは、これら3タイプが揃って得られた。一方、近隣諸国の集団はほぼ共通の配列を示したが、これらはいずれも日本集団の配列とは一致せず、欧州集団の配列とも異なっていた。従って本種欧州集団の由来は日本、特に東京湾を含む太平洋沿岸域である可能性が高い。