| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB3-060 (Poster presentation)
人為的撹乱を受ける場所に生育する植物にとって、人間活動はその分布に影響を与える重要な要因である。輸入穀物に混入して持ち込まれる外来植物の分布は、輸入穀物の荷揚げ量や搬送経路に影響を受けて形成されていると考えられる。本研究では、輸入穀物への混入率が高いドクムギ属(Lolium spp.)を例に、輸入穀物からのこぼれ落ち由来と考えられる個体が穀物輸入港でどれくらい広がっているのか、またその分布は穀物の搬送経路の構造によって影響を受けているのかについて調査した。ドクムギ属は世界中の農耕地で問題雑草となっている一方、牧草や緑化植物として広く利用され、全国の路傍や畑で雑草化している。これまでに、輸入コムギへの混入個体は牧草や緑化に使用されている栽培品種とは遺伝的に分化していることがSSRマーカーによる遺伝解析から明らかとなっている。
輸入ムギの陸揚げ量の多い2港(茨城県鹿島港および香川県坂出港)において、陸揚げ場所を中心とした半径約8km四方に生育するドクムギ属17~20集団から各30個体ずつ葉を採取し、SSRマーカー4遺伝子座を用いた遺伝解析を行なった。その結果、両港ともに穀物の陸揚げ場所から2km圏内の集団は輸入コムギ混入個体と、4km以上離れた集団は栽培品種と遺伝的に近いことが示された。また、荷揚げ場所から近くても主要道路からはずれた市街地の道ばたや河川堤防には、栽培品種と遺伝的に近い個体が生育していた。この結果は、輸入穀物由来のドクムギ属が陸揚げ場所および穀物の搬送道路沿いに局所的に生育しており、栽培品種と交雑可能であるにも関わらず、花粉や種子散布による周囲への拡散は限られていることを示唆している。