| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB3-063 (Poster presentation)

外来種の生息調査に有効な食肉目の糞のDNA分析

大井和之(九環協)

外来生物の侵入対策や希少種の生息確認等,哺乳類の生息状況を把握する調査の需要は増加している。哺乳類では,対象種の直接観察が困難な場合に糞や足跡などの生息痕調査が重要な手段であるが,糞の目視観察では種の同定が困難な場合も少なくなかった。糞中のDNAの分析による落とし主の種名の判定は,このような場合に有効である。

食肉目には,特定外来生物のアライグマのほか,福岡県では外来種のチョウセンイタチ,県RDB掲載種のイタチ,キツネがあり,環境調査で注目されている。しかし,イタチとチョウセンイタチは糞の形態では区別できず,テンの糞もイタチ類と類似している。またタヌキ,アナグマ,アライグマ,キツネ,イヌについてもため糞であるかどうか等の識別点はあるが,判定が難しい場合も多い。

生息痕調査で採取した糞の分析は,試料が長時間野外に放置されてDNAの断片化が進行したり夾雑物が存在したりする可能性があり,シンプルで安定性の高い方法が求められる。また,環境調査の一環として低コスト,短時間で多サンプルの処理ができることが望ましい。このため,ミトコンドリアDNAの制御領域の比較的短い断片を増幅するプライマーを設計し,そのPCR産物を制限酵素処理してアガロースゲル電気泳動で断片長を比較して種名を判定する方法を開発した。

今回設計したプライマーを用いて食肉目イヌ亜目8種から,約230~280塩基のDNA断片が増幅された。PCR産物の長さは短いが,種間の塩基配列の変異が大きい領域であり,3種の制限酵素を使用して上記8種の識別が可能であった。アライグマの分布拡大の追跡やチョウセンイタチに追われ姿を消していた在来イタチの生息確認に活用している。


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