| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB3-079 (Poster presentation)
保護区選択においては、検討対象地域全域で、全種の分布が把握されていることが理想的である。しかし、現実の分布データには、調査範囲が限られる、範囲にバイアスがある、同定ミスがあるなど、さまざまな問題がある。これらの問題の影響を緩和する方法の1つとして、分布推定モデルの利用がある。そこでは環境情報に基づいて未調査の地域の分布を推定し、調査範囲のバイアスを解消することが期待されている。ただし、分布の推定には不確実性が伴うというデメリットがある。
本研究の目的は、保護区選択において分布データに制約がある場合に、事前に分布推定モデルによってデータ処理を行うことの有効性を評価することである。モデルの有効性に影響しうる要因を制御するため、シミュレーションで生成した仮想の生物分布データを用いて評価を行った。シミュレーションでは、生物の分布は環境変数のみに依存して決まっていると仮定して分布を生成した。
分布推定モデルによるデータ処理の有効性に影響する要因として、1.調査範囲の広さ、2.調査範囲のバイアスの大きさ、3.見逃しや誤同定の頻度、の3点を考慮した。保護区選択は相補性に基づいて行った。また、保護区は一定の目標サイズに達するまで選ぶこととし、その一定サイズの中で保護できた種数を評価の基準とした。モデルの推定に基づいて保護区選択した場合と、元の分布データ(生データ)をそのまま使って保護区選択した場合について、保護できた種数を比較した。
解析の結果、意外なことに、どのような条件下でも、生データのみに基づいたほうが、分布推定モデルを使った場合よりも多くの種を保護することができた。このような結果の本質的な原因は、分布推定モデルが出現頻度の低い種の分布推定を精度高く行うことができない、ということであると考えられる。