| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB3-086 (Poster presentation)
我々は、形態により同定されたユスリカに対してDNAの塩基配列を対応させるための研究(DNAバーコーディング)を行っている。ところで、そもそも形態による同定にも様々な不確実さが存在する。まず、世界各地の研究者の間で重視する形態形質や、その形質の解釈が微妙に異なるために、各地域に固有の多数の同物異名が報告されている。また、例えば、ユスリカ属Chironomusでは多数の同胞種が報告されているが、生殖的隔離に関わる要因が検討されていない場合が多く、各々を独立した種として扱ってよいか疑問視する研究者がいる。これらの問題では形態観察による検討は手詰まりの観があり、DNAバーコーディングと組み合わせることにより解決されることが期待される。
我々の研究では、今までに以下のようなことが分かった。1)ユスリカ属やツヤユスリカ属Cricotopusの紛らわしい種でも、DNA の系統樹では異なるクレードに分かれた。2)ヤマトユスリカChironomus nipponensisなど、1種と考えられていたものが2つの異なるクレードに分かれ複数種で構成されることが分かった。3)逆にヒメエリユスリカ属Psectrocladiusの種では、日本から新種記載された種の塩基配列が、海外から記載された種の塩基配列に合致し、同物異名の可能性が示唆された。
このように、すでに形態による同定の不確実さを補いうる成果が得られた一方、どの程度の塩基配列の違いまでを別のクレードとして扱うかなど、DNAの扱いの方にも検討しておくべき課題がある。