| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PC2-006 (Poster presentation)

河口干潟におけるスナガニ類の有機物無機化量の推定

*濃野大地,佐々木晶子,中坪孝之(広島大・院・生物圏)

干潟は、多様な機能を有する場として重要であるが、これらは戦後の沿岸開発により大きく減少した。このため、近年、干潟の保全・再生が推進されており、その中で干潟生態系機能の定量的評価が求められている。干潟の重要な機能の1つとして底生動物や微生物による有機物無機化機能が挙げられる。そこで本研究では、干潟の代表的な底生動物であるスナガニ類の呼吸を通した有機物無機化量を推定し、干潟の有機物無機化機能におけるスナガニ類の役割について定量的に評価することを目的とした。

調査地はスナガニ類が優占的に生息する広島県呉市の黒瀬川河口干潟を対象とした。まず、スナガニ類の体重別分布密度を推定するため、巣穴直径と体重(乾重)との関係を明かにすると共に、現地に25cm×25cmのコドラートを16地点に設置し、その中の巣穴の数と直径を調査した。次に、スナガニ類の大気中及び水中における呼吸速度を明かにするため、大気中では赤外線ガス分析装置を、水中ではDOメーターを使用して呼吸速度を測定した。測定では呼吸速度に対する体重と温度の影響について検討した。

実験により得られた体重と呼吸速度の関係及び温度と呼吸速度の関係をもとに、現地における体重別分布密度、干出・冠水時間、気温、海水温の変動を考慮して、有機物無機化量の推定を行った。その結果、月あたりでは8月で最大(7.1 gCO2-C m-2month-1)、2月で最小(0.7 gCO2-C m-2 month-1)となり、スナガニ類の有機物無機化量は季節によって大きく異なることが示唆された。さらに年間の有機物無機化量を推定すると42 gCO2-C m-2 yr-1 となった。この値は同地で測定された土壌微生物による有機物無機化量(Sasaki et al. 2012)の約半分に相当し、スナガニ類は干潟の有機物無機化機能において重要な役割を果たすことが示唆された。


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