| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PC2-016 (Poster presentation)
瀬戸内沿岸における常緑広葉樹林の潜在的な炭素吸収機能を把握することを目標に,過去の人為的攪乱の影響が比較的少ない広島県・宮島の常緑広葉樹林において,森林の炭素吸収 / 排出の指標である生態系純生産量(NEP)について調査を行った。
調査は生態学的な積み上げ法に基づいて行った。宮島北東部の常緑広葉樹とアカマツが混成する二次林内に設置した植生調査プロット(0.6 ha),成長量,新規加入量,リター量を測定し、純一次生産量(NPP)を算出した。同時にプロット内で土壌呼吸量を測定し、根呼吸量の差し引きから従属栄養生物の呼吸(HR)を求め, NEPを算出した。上記の測定は2013年6月から2014年1月にかけて実施した。その結果,NEPは-0.950 ± 0.828 tC / ha / yとなり,調査期間中の二酸化炭素の収支は,排出量が吸収量を上回っていることが分かった。とはいえ,調査地内は谷部の腐植層が厚い場所で成立する常緑広葉樹林と尾根部で発達する低木(アカマツなど優占)が混在しており、立地環境によりNEPも変動することが想定されたので,地形タイプ(尾根,斜面,谷)毎にNEPを算出・比較した。その結果,尾根は-1.25 tC / ha / y ,斜面は-0.27 tC / ha / y ,谷は-3.84 tC / ha / yとなり,地形タイプ毎でも二酸化炭素排出量が吸収量を上回った。
この原因として,宮島でのNPPの値が他の温帯林での報告例に比べて低く, 排出量であるHRが高いことがあげられる。また、NPPが低い要因としては,シカによる角研ぎや環状剥皮による枯損木の発生、新規個体の参入率(定着率)の低下、生残個体生長抑制などが挙げられる。これにより成長量や新規加入量が低下したことが示唆される。