| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PC2-022 (Poster presentation)

鱗翅目昆虫の変態に伴う自己生物濃縮

佐藤 臨(岩手連大・生物環境),東 信行(弘大・農生)

著者らは炭素と窒素の安定同位体を用いた食物網解析を行なってきたが、その中で鱗翅目のバルク試料において幼虫に比して成虫のδN値がきわめて高くなる結果を得た。栄養段階の指標となるδNのずれは誤った解析結果や解釈をもたらす可能性があり、この現象と要因を把握することは食物網解析を行う上で重要である。口器がない鱗翅目成虫の同位体組成は幼虫時に摂食した植物の組成のみを反映しているため、幼虫~羽化に至るまでの変態の過程において15Nの濃縮が生じているものと考え、本研究はその検証を行なった。

試料としてヨシカレハEuthrix potatoriaの幼虫と繭を野外で採取した。室内で羽化させた成虫を頭部・胸部・脚・翅・腹部に分割して同位体分析を行い、各部位の違いを見た上で、それをまとめたバルク試料での分析値を算出するものとした。また、濃縮が起こる段階を調べるために幼虫・幼虫殻・蛹殻と蛹便・繭も試料として用いた。

結果、バルク試料における幼虫から成虫への濃縮値はδNでは雄が+3~6‰、雌が+1~4‰、δCでは雄が-2~-3‰、雌が0~-1‰となり、雌雄間で差が見られた。δNが顕著に低い値を示したのは蛹便であり、羽化時に14Nを多く含む蛹便が大量に排出されることでδNの自己的な濃縮が達成されているものと考えられた。δCの濃度が低くなるのは、幼虫が出す繭糸に13Cが多く含まれる事に因るものと思われる。昆虫の雌雄で体液蛋白成分の濃度が異なることを小原(1967)が、カイコ雌幼虫の全体液蛋白質濃度が卵巣の発達に伴って低下していき成虫時点で雄より著しく濃度が低くなることを藤井・川口(1983)が報告している。以上のことから、雌雄の差は主に生殖腺の成分の違いに起因するものであると考えられ、幼虫と成虫でのδNの差だけでなく雌雄での差も考慮した分析・解析を行っていく必要があると思われる。


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