| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PC2-025 (Poster presentation)
樹木の生産するポリフェノールは土壌に加入すると、タンパク質と難分解性の複合体を形成することで窒素無機化を阻害する可能性がある。一方樹木は、土壌栄養塩可給性の低下に対して、植食者からの被食を通した栄養塩の損失を防ぐため、樹木組織内のポリフェノール濃度を増加させて被食防御を行うことが知られている。そのため、窒素可給性の低い土壌に適応した樹木がポリフェノールをより多く生産し、さらに土壌の窒素可給性低下を促進するとするフィードバック仮説が存在する。土壌リン可給性の低下においても、同様のプロセスから、樹木組織内のポリフェノール濃度は増加すると予想される。以上のことから、リン可給性の低下が、樹木の葉と細根のポリフェノール生産を介して、窒素可給性を低下させると考えられる。
この仮説を検証するため、ボルネオ島のキナバル山の山地林(1800m)における、リン可給性の異なる6サイトで調査を行った。各サイトで土壌の可溶態リン現存量、無機態窒素濃度、総フェノール濃度およびフェノール物質のタンパク質複合体形成能を測定した。葉リターと細根の総フェノール濃度を求めた。ルートメッシュ法によって細根生産速度を求めた。
その結果、土壌の可溶態リン現存量の減少に伴い、樹木リターによる総フェノール加入速度が増加し、土壌中のフェノール濃度が増加する傾向が見られた。土壌中の総フェノール濃度が高いほど、土壌の潜在的なタンパク質複合体形成能が高く、有機態窒素をより難分解化させていることが示された。硝酸態窒素濃度も、総フェノール濃度が高い土壌ほど、低くなる傾向を示した。以上のことから、土壌中のリン可給性の低下によって、樹木リターから土壌に加入するポリフェノール量が増加し、土壌窒素可給性が低下するプロセスが示唆された。