| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PC2-030 (Poster presentation)
森林環境において水は植物の成長や物質循環において重要な役割を担う。水動態・収支は複数の要素によって作用され、環境や林分の違いの影響を受けることが知られている。しかし、同じ環境条件下の複数の林分でこれらの要素を直接測定・比較したものは少ない。そこで本研究では樹種の異なる隣接した2つの林分に注目し、年間の水動態を比較し、樹種の違いや季節の影響について議論した。
調査は長野県軽井沢町のアカマツ林とコナラ林において、2013年5~11月にかけて行った。降水量、林内雨量、樹幹流量、土壌への浸透水量、蒸散量を直接測定し、これらの差し引きから遮断蒸発量と地表面蒸発量を推定し、その和を蒸発量とした。
測定期間における積算降水量は884 mmであった。林内雨量の降水量に対する割合はアカマツ林で72.2%とコナラ林より約10%大きかった。樹幹流量は両林分とも1%未満と非常に小さく、土壌への浸透水量はアカマツ林で5.6%、コナラ林で7.2%であった。地表面蒸発量や土壌含水率が小さいアカマツ林では地表面に到達した雨の多くは根から吸収され蒸散し、その量は51.4%と水動態において大きな割合を占めた。一方、土壌含水率が高く土壌への浸透水量も多いコナラ林では、地表面に到達した雨は土壌へ浸透し貯蓄される量と地表面から蒸発する量が多く、蒸発量は79.7%と算出され、蒸散量は小さかった。以上のことから、樹種の違いは特に蒸散量と蒸発量に対して大きな影響を及ぼすことが明らかになった。また、落葉によって樹冠閉鎖度が大きく変化するコナラ林において落葉期と着葉期を比較した結果、落葉期には遮断蒸発量も蒸散量も減少していた。したがって、森林における水動態・収支は樹種の違いだけでなく、同じ樹種でも季節によって差が生じることが示唆された。