| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
シンポジウム S05-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
サケ科魚類における河川残留と降海の意思決定プロセスの理解は、生活史進化に関する研究の重要な課題である。一方、サケ科魚類の残留型と降海型はそれぞれ、生態系間相互作用に重要な役割を果たすことが知られている。例えば、残留型は高次捕食者として河川生態系の栄養カスケードを引き起こすが、その強度は森林からの資源供給によって短期的に低下する。また、降海型は産卵時の河床攪乱や海洋由来の栄養塩供給を通して、河川と森林生態系に大きな影響を及ぼす。河川残留と降海の意思決定は、初期の成長や個体間関係によって柔軟になされると考えられているが、それらの要因に対する森林からの資源供給の影響が強く示唆される。しかし、サケ科魚類の生活史研究と生態系間相互作用研究は個別に行われており、残留・降海の意思決定と森林-河川相互作用の間のフィードバック機構は明らかにされていない。
本発表では、サケ科魚類を主題に、遺伝子から生態系間相互作用に至る階層縦断的な関係の理解を進めるべく、既存文献の整理と演者らの一連の研究紹介をする。既存文献の再評価等から、生活史初期の個体成長に対する森林資源の重要性は、個体発生に関連したニッチシフトと個体間の干渉によって決定されることが明らかになった。また、サケ科魚類個体群の体サイズ構造が、森林資源が河川の栄養カスケードに与える影響を緩和することを大規模野外実験によって示した。個体群の体サイズ構造は、河川残留型と降海型の頻度に応じて変化すると考えられる。最後に、降海型の母川回帰と森林資源流入(落葉)のタイミングの同調・非同調が河川生態系の季節的動態や次世代の稚魚の初期成長に与える影響を検証する実験の結果について予報的に紹介する。これらに基づき、「遺伝子から生態系まで」に関する研究を面白くするための今後の課題について議論したい。