| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S05-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

サケ科魚類の柔軟な生活史変化が河川中の栄養塩吸収過程に及ぼす影響

江草智弘(東京大・農)

シロザケやカラフトマスなど多くの太平洋サケ属は、河川で孵化し、稚魚のうちに湖沼や海へ降下し、成熟した後、繁殖のため母川に回帰する。繁殖行動後の成体は河川中で生涯を終えるため、死骸を通じて、湖沼や海由来の窒素・リン・炭素などの栄養を大量に供給する。これらの栄養は河川生態系の生育を支え、生態系内に保持される。多くの研究例が、サケ資源による河川中の一次生産量増加、水生昆虫の成長量増大などの影響について報告している。

一方、落葉は河川中の微生物にとって重要な炭素源となることが知られている。既存の研究例では、落葉期に微生物活性が増大し、河川中の栄養塩吸収量を増加させ、栄養塩濃度を減少させることが報告されている。

これらの研究にも関わらず、サケ資源と落葉との複合的な供給が生態系へ及ぼす影響については、未だ十分に明らかになっていない。いくつかの研究事例によって、サケ資源による栄養塩供給は、落葉上の微生物活性を増大させ、落葉食の水生昆虫の成育を促進することが知られている。この微生物活性の増大は、死骸の分解の促進、栄養塩の更なる供給につながり、一次生産や藻類食の水生昆虫の成長に正の影響を及ぼす可能性を持つが、逆に微生物・藻類間で栄養塩に対する競合を生み、負の影響を及ぼす可能性もある。

我々は、京都大学和歌山研究林事務所において、サケ資源供給と落葉供給の複合を模した室内実験を行った。サケ資源の供給タイミングは落葉の20日前、落葉と同時、落葉の20日後と3段階に変化させた。実験開始から20日おきに、水中の栄養塩動態、一次生産量、生態系呼吸量、水生昆虫成長量を調査し、サケ資源と落葉の複合的な供給に対する生態系の反応メカニズムについて明らかにすることを試みた。


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