| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S12-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

数で騙す!ージュウイチ雛は知能犯?ー

田中啓太(立教大・理)

鳥類は視覚・聴覚をもちいた弁別に優れており,また,学習能力も高いため,認知生態学研究を行う上で格好の素材だが.中でも托卵鳥とその宿主の“軍拡競走”型共進化はこれらの認知能力を駆使するかたちで起きており,好例として様々な認知生態学研究が行われている.本講演ではカッコウ科托卵鳥であるジュウイチを題材に,“雛の口”がもつ認知的影響の様々な側面,とくにその数に着目し,研究を紹介する.ジュウイチの雛は他のカッコウ類の雛と同様に孵化後しばらくして宿主の巣を独占するが,他の鳥類には見られない,翼の裏に口の中と同色の黄色の皮膚が裸出したパッチを持ち,これを給餌にやってきた宿主の仮親に誇示する.このディスプレイ行動は仮親による給餌増加を誘起させており,また,皮膚パッチに対し仮親が誤って給餌を試みることがあることから,仮親はこの翼のパッチを雛の口と誤認しており,1羽しかいないにもかかわらず巣の中の雛の数が実際よりも多くいるように錯覚していると考えられる.ここで根底となる仮説はパッチの数が雛の数として機能しているというものだが,2種類のアプローチからこの仮説を検討する.まずはジュウイチの雛が仮親を騙す際にパッチの数がどのような役割を果たしているのか,つまり,パッチの数が給餌を得るための“通貨”となっているのかを野外観察の結果から検討する.一方,仮親の雛の数に対する反応はそれ自体,ジュウイチとは無関係に存在しているはずの特徴である.そこで,野外において托卵されていない宿主の巣を用い,実験的に巣内の雛の数を操作することで,“本当の”雛の数がどのような形で親の給餌を引き出す通貨になっているのかを検討する.そして,ジュウイチ雛の行動への反応として仮親が見せた行動における“不協和”も踏まえ,托卵巣・通常巣での(仮)親の行動における異同から,彼らが認識しているであろう,巣の中にいる雛の数について論じる.


日本生態学会