| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
シンポジウム S12-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
認知生態学は,動物の意志決定機構や情報処理能力がどのように生存や繁殖に寄与し,どのような淘汰圧によって進化してきたのか明らかにすることを目的とする。また,動物種ごとに異なる神経系の制約が,自然条件下で動物行動にどのようなバイアスを生じさせるのかについても探究する。動物の認知システムが自然環境にどのように適応しているのかというこれらの問いかけは,古典的な行動生態学ではおろそかにされてきた点であり,実験動物を用いた比較認知科学でも及ばなかった大きな課題である。
脊椎動物に発達した音声コミュニケーションは,認知生態学の発展に大きく貢献しうる。なぜならば,信号を発する個体の意志決定と,それを受信する個体の情報処理がどのように生態的に適応しているのかを,野外で検証することができるからである。近年の研究で,一部の鳥類や哺乳類が,さまざまな鳴き声を使い分け,捕食者の種類や食物の種類など,複雑な情報を伝えることが明らかにされてきた。これらの成果は,動物の鳴き声が恐怖や喜びといった単なる情動のあらわれに過ぎないとする従来の科学的憶測をくつがえすものであり,動物が環境中の指示対象を伝える高度なコミュニケーションを進化させている証拠である。
演者は,これらの動物にみられる音声コミュニケーションがどれほど洗練されており,信号の発信者と受信者にどのような適応度上の利益をもたらすのか,これまでの実証研究を紹介しつつ概説する。また,生理学的・解剖学的な制約が情報の伝達に与える制約についても議論する。さらに,対象物を指示する能力と,音声から意味を理解する能力がどのような自然淘汰のプロセスによって進化してきたのかを明らかにするための研究方策について,演者の研究成果を例に考察し,今後の認知生態学を展望する。