| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S16-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

地域の保全活動を担う人材育成と主体間コミュニケーション

相川高信(三菱UFJ)

日本社会が人口減少の段階に入ったことは、生産活動や居住目的に振り向けられてきた森林や農地、河川氾濫原等に対する集約的利用への圧力を減じさせ、自然生態系のプロセスに委ねていくことを容易にすると予想される。他方、実行面に関わっては、税収の減少等の理由から、自然資源保全に係る行政職員や予算の大幅な増大は、ますます難しくなるだろう。しかも、地域の保全活動において重要と思われる市町村には、環境分野の専門職員を欠く場合が多い。また、そもそも日本の国土の大部分は私有され、農林地は農業や林業生産を目的に管理されており、これらの土地の所有者・管理者との協働が不可欠である。

このようなことから、今後に必要な人材育成の方向性として以下の2つを仮設的に提示するが、それぞれ生態学分野の非専門家と専門家に対するものとして位置付けられる。1つ目は、既存の現場人材に対する基礎的な生態学的知識の付与である。これら現場人材は、市町村職員や農林水産業の関係者等が想定されることから、生態学分野における非専門家の育成に相当し、彼ら/彼女ら自身の専門性の中に、生態学的知識を取り込むことが期待される。2つ目は、生態学を専門とする人材の育成で、環境行政の担当者や研究者等が相当する。これらの人材には、生態学的な専門性に加えて、多様な主体との連携を可能とするコミュニケーション・スキル等の職業的な専門性を身に付けることが求められる。更に言うならば、地域社会課題の解決に対して、生態系の保全がどのような価値やサービスを提供できるのかということについて、多様なステークホルダーと文脈をすり合わせることができる能力が求められる。


日本生態学会