| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T22-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

中間温帯の成因と森林植物社会

野嵜玲児(神戸女学院大・人間科学)

「中間温帯」(鈴木 1961)は暖温帯と冷温帯との移行部に時として成立する植生帯で、主にイヌブナ林やモミ・ツガ林、コナラ林、シデ林などから構成される。中間温帯は古くは間帯(田中 1887)、暖帯落葉樹林帯(吉良 1948)と呼ばれ、その位置づけをめぐって一世紀以上にわたる議論が続いてきた。中間温帯を認めない研究者も多いが、これは、気候的極相のブナ林が脊梁山脈の両側に分布するのに対して、中間温帯林の多くが日本海側で分布を欠くことが一因している。一方、西南日本の太平洋側ではモミ・ツガ林は吉良の暖帯落葉樹林の領域(WI≧85, CI≦-10℃・月)を超えて分布している。中間温帯林の実際の垂直分布上限はWI60℃・月付近、すなわち冷温帯域のほぼ中央部にある。つまり、中間温帯林は暖温帯上部から冷温帯下部を領域とする下部温帯性の森林であり、本来は、北海道の針広混交林と相同の上部温帯林(本州ではウラジロモミ、ミズナラが主)と、温帯域を上下(あるいは北と南)に二分する関係にあったと考えられる(野嵜・奥富 1990)。この両温帯林は大陸では、朝鮮半島および華北平原のナラ林、中国東北地方およびロシア極東の針広混交林にそれぞれ対比でき、大陸と共通する基本的な植生帯といえる。下部温帯林と上部温帯林の原型は、現生種が現れ始めた約200万年前の前期更新世まで遡れ、前期更新世以降の東北地方南部ではコナラ、イヌシデなどを主とする中間温帯林と、トウヒ、チョウセンゴヨウにブナ、ナラ類が混じる針広混交林とが、気候の寒暖に伴って交代・変遷を繰り返したと推定されている(鈴木 1987; 竹内2000)。完新世以降の気候の温暖湿潤化に伴って、この両温帯林を覆う形でブナ林や照葉樹林が拡大したために、現在のような中間温帯が成立したと解せるが、このことは今日の中間温帯林の種組成に影響を与えるとともに、人為作用による二次林の成立とも深く関わっている(野嵜 2012)。


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