| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(口頭発表) A2-30 (Oral presentation)
【はじめに】クリンソウは北海道から 九州にかけて分布するサクラソウ属の植物で,化学的防衛によりシカが採食しない不嗜好植物として知られる。しかし,2011年に春日山原始林でクリンソウの葉に対する採食が確認された。これはシカの採食影響が強い場合に,クリンソウの化学的防衛が突破される可能性を示唆する。一方,クリンソウの化学防衛物質は具体的に特定されておらず,地域,個体,器官での量的変異について全くの未知である。そこでクリンソウの化学的防衛に関与する物質の抽出を試み,その物質の地域および器官比較を行った。
【調査地および調査方法】2014年夏期に春日山原始林と京都市芹生でクリンソウを採集した。前者は長年にわたりシカ個体群が高密度で生息し,後者は近年,シカの採食圧が高い地域である。2地点の試料から得たジクロロメタン抽出物をガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)に注入し,標品との比較により成分を同定した。定量分析にはガスクロマトグラフを用い,標品のピーク面積から検量線を作成し,総重量を計算した。
【結果および考察】GCMS分析の結果,地上部抽出物の主成分としてフラボンを同定した。葉部1gあたりの重量は春日山2.13mg±0.60,芹生0.39mg±0.24で有意差が認められた。春日山花茎1gあたりでは7.31mg±7.77で,葉よりも高い値を示した。健全葉と採食葉でフラボン含有量の比較を行った結果,春日山健全葉がもっとも高い値を示し,ついで春日山葉全体,芹生葉全体の順であった。一方,根には両地域間の有意な差異はなかった。フラボン濃度がシカの採食防衛に関与しているか否かの検証が今後,必要とされるが,1)地域間の差異,2) 根で濃度が低く,繁殖器官で高いといった器官による差異などが明らかにされた。