| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) A2-35 (Oral presentation)

植食性昆虫の近縁・遠縁寄主シフトにおける適応度と遺伝子発現の変化

*津田みどり,谷聡一郎,岩瀬俊一郎,佐伯順子,田代康介(九大院・農)

植食性昆虫の近縁寄主植物シフト後の新規寄主への適応は研究されている。しかし、遠縁近縁寄主植物へのシフトや、シフト初期に起きる遺伝的変化を伴わない形質の可塑性、つまり遺伝子発現の様相(遺伝子発現領域・発現量)の変化については未解明である。そこで本研究では、野外で近縁および遠縁寄主へのシフトが発見された狭食性ゾウムシの1種について、寄主シフトの室内実験後、遺伝子発現を調べた。対照寄主はウマゴヤシ、近縁寄主はレンゲ、遠縁寄主はダイズを使用した。ウマゴヤシから採集した集団からウマゴヤシで個別飼育を行い交配したペアの子を同様に飼育し一定体重を越えた時点で、対照寄主、近縁寄主、遠縁寄主のいずれかを一定期間与えた。体重増加は対照寄主食・近縁寄主食で1.8倍以上、遠縁寄主食で1.2倍と異なった。

次に、これらの個体からRNAを抽出し、RNA-seqを行った。複数サンプル分、合計約629万本のリードを用いてde novoアセンブルを行い、約9万本のコンティグが作成された。生成したコンティグに対して各サンプルのシーケンスリードをマッピングし、サンプルごとの遺伝子発現量を解析した。対照寄主食に比べ、近縁寄主食では10倍以上発現変化する遺伝子が61個、100倍以上は3遺伝子のみ検出されたのに対して、遠縁寄主食では10倍以上が147遺伝子、100倍以上が20遺伝子において検出され、近縁寄主食に比べて多くの遺伝子発現が増加していることが判明した。さらに遠縁寄主において100倍以上変化した遺伝子をデータベースによって相同性解析した結果、抗微生物ペプチドと相同性を示すコンティグが多く含まれていた。狭食性植食性昆虫においては、近縁寄主への転換よりも遠縁寄主への転換はより多くの発現変化を伴い、多面的なコストを負うことが解明できた。


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