| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) D1-22 (Oral presentation)

過去30年間に霞ヶ浦で生じた一次生産者の構造と機能の急激な変化とその要因~レジームシフトパターンの分析~

松崎慎一郎(国環研・生物セ),角谷拓(国環研・生物セ/Univ. of Guelph,),中川惠(国環研・生物セ),高村典子(国環研・生物セ)

生態系管理において、生態系の状態が急激に変化することを回避するため、駆動因に対する生態系の状態の応答パターンが線形であるか、閾値をもつ非線形であるか、もしくは履歴現象があるのかを分析することが重要である。これらの理解は、不健全化した生態系の復元や健全な生態系の予防的な管理への応用につながる。

湖沼生態系は、人間活動に起因する様々な影響を強く受けやすく脆弱性が高い系である。本研究では、30年以上の長期モニタリングデータが蓄積されている霞ヶ浦において、生態系状態の変化とそれに関わる主要な駆動因を特定し、駆動因に対する生態系状態の応答パターンを分析した。解析には、2地点における1983~2012年の年平均値を用いた。

生態系状態の指標として、一次生産者の構造に注目し、クロロフィルa量とシアノバクテリアの総藻類現存量に占める割合を用いた。要因解析では、ボトムアップ効果として水温・水位・全窒素・全リン・懸濁態無機炭素を、トップダウン効果として枝角(ミジンコ)類の総個体数密度を説明変数として用いた。

各状態指標は、過去数回にわたり急激な変化が認められた。指標によってその時期が異なったが、いずれの指標もボトムアップ効果の影響を相対的に強く受けていた。シアノバクテリアの占める割合はトップダウン効果の影響も受けていた。Bestelmeyer et al. (2011, Ecosphere)の方法に従い、状態指標の頻度分布・時系列の分散・駆動因との線形・非線形関係を分析した結果、霞ヶ浦でみられた植物プランクトンの構造と機能の変化は、履歴現象を伴うような不可逆的なシフトではなく、閾値をもつ非線形型のシフトであることが示唆された。


日本生態学会