| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(口頭発表) E2-32 (Oral presentation)
個体群,群集の動態において空間構造は重要な要素である.空間構造を考慮した従来の数理モデル(例えば反応拡散モデルや格子モデル)では,個体が生存可能である「場」があらかじめ与えられ,その上での増殖や分散が取り扱われてきた.しかし固着性の生物には,成長の過程で自ら「場」を形成し分布が拡大していくものも多い.例えば,石などの基質上で微生物膜が形成される過程では,石の表面が流れに洗われた「無」の状態から,微生物が定着し層をなす「有」の状態が生じる.本研究では,自発的に生息場を形成していく群集の動態を表す数理モデルである「等密度変形動態モデル」(Fixed Density Deformation Dynamics)を新たに導入する.このモデルでは,境界で定められた空間内部において,生物および無生物(死骸や無機物粒子)を合わせた密度は一定であると仮定する.これらの条件から,増殖や死滅に応じて内部および境界が移動する速度が得られ,密度効果が自然に導かれる.モデルを適用する具体的な問題として,河床や湖底などで基質上に形成される藻類マットにおける光を巡る競争を扱う.計算により,藻類種の増殖と死滅,死骸の無機化のバランスにより藻類マットが成長し,動的に維持されていることが示された.種間競争では,光合成効率と最大増殖速度のトレードオフにより,多種の藻類が層をなして共存する藻類マットが形成されることが示された.得られた結果は,実際に見られる藻類マットを定性的に表している.等密度変形動態モデルは一般的な枠組みであり,様々な固着性生物に適用可能である.