| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) E2-34 (Oral presentation)

空間上における利他行動と資源収奪の進化モデル

*山内淳(京大・生態研センター), Minus van Baalen(Centre National de la Recherche Scientifique), Maurice Sabelis(University of Amsterdam)

個体の移動性の低さは相互作用をする個体間の血縁を高め、結果として、血縁淘汰を促進して利他行動の進化を促すと期待されるかもしれない。しかし、空間明示的なモデルの解析から、そうした状況では血縁者間での場所をめぐる競争が高まることで、血縁淘汰の効果が相殺されてしまうことが示されている。一方、競争の存在は一般的に利他行動の進化に抑制的に働くと考えられている。空間構造上での社会的行動の進化をより明確にするため、利他行動と資源収奪という2つの形質間の相互作用に注目し、それらの進化を空間明示的なシミュレーション・モデルによって解析した。利他行動と資源収奪ではその影響がおよぶ距離(カーネル)が異なると仮定し、また、資源収奪の過程では個体間に資源獲得をめぐって競争があると考える。解析の結果、利他行動カーネルが資源収奪カーネルより小さい場合に、コストを伴う利他行動が進化する場合があることが示された。また、資源収奪のレベルと利他行動のレベルの間には、正の相関が見られた。個体の空間分布の結果から、資源収奪レベルの増大が個体群の空間構造を規定し、それが血縁淘汰を駆動することで利他行動の進化が促進されることが示唆された。その点では、資源収奪から利他行動へ一方向的な作用が主要な役割を果たしている。しかし一方で、資源収奪と利他行動が同時に進化す場合にのみ個体群の「進化的自殺」が生じる場合があり、これは両者の間の一方向的な関係で捉えることはできない。これらの結果は、コストを伴う利他行動の進化において、利己的な資源収奪の進化および個体の空間分布の変化をめぐる生態進化ダイナミクスが重要な役割を果たす可能性を示している。


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