| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) E2-36 (Oral presentation)

集団免疫が駆動するインフルエンザの進化動態:ハイブリッド力学系によるアプローチ

岩見真吾 九大・生物&JSTさきがけ*, 立木佑弥 北大・環境, 池田裕宜 九大・システム生命

季節性のA型インフルエンザウイルスは、ヒトの免疫応答と相互作用する事で年々進化している。近年、インフルエンザウイルスの抗原進化、あるいは、配列進化を数理モデルにより再現するためには、宿主の交差免疫反応が重要な要素である事が示されてきた。しかしながら、ウイルス株の多様性、および、交差免疫構造の複雑さより、過去の研究の多くは、本質的に個体ベースシミュレーションや超高次元の数理モデルに頼らざるを得なかった。これらのアプローチは汎用的である反面、解析する事は困難で、また、計算時間もかかる。本研究では、連続力学系と離散力学系を融合させた“ハイブリッド力学系”という近年発達してきたアプローチを用いて、インフルエンザの進化動態を記述した。興味深い事に、交差免疫が終生であり、年内の流行株が1種であるという現実的な条件下では、ハイブリッド力学系は代数演算に縮約される事が分かった。解析の結果、例えば、2次元の株空間内における流行株の進化は、自己回避的なランダムウォーク様の振る舞いを示すことが分かった。さらに、交差免疫が強くなるにつれてウォークの拘束力は弱くなり、ウイルスの進化速度が加速する事が分かった。また、ハイブリッド力学系から得られる演算は極めて簡便であり、超高次元で行われるデータ同化との相性も良い事より、今後は、インフルエンザの抗原変異予測等、現実的な問題への応用可能性の検討も行っていく。


日本生態学会