| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(口頭発表) F1-17 (Oral presentation)
蘚苔類群落は着生シダの定着に影響を与える.着生シダのノキシノブの前葉体は,ウロコゴケ目の小型苔類群落上にも生育しているが,胞子体は群落高が5mm程度ある蘚類群落に多い.そのため,胞子体の形成には蘚類群落が重要な役割を担っている可能性がある.本研究では,ノキシノブの前葉体の生長とそれらの周りに生育する蘚苔類群落の動態を継続的に観察し,蘚苔類の群落動態がノキシノブの定着にどのような影響を与えているかを考察した.
ソメイヨシノの樹幹表面に生育している前葉体を個体識別し,6月下旬から11月下旬までの5ヶ月間,胞子体形成の有無,前葉体の生存,前葉体の周囲に生育する蘚苔類の群落動態を継続的に観察した.
胞子体を形成した個体数は日時が経過するにつれて増加し,5ヵ月後には37%の前葉体が胞子体を形成した.一方,日時の経過に伴って前葉体の死亡数も増加し,5ヶ月後には27%の前葉体が死亡した.また,個体識別マーカーごと行方不明になったものも5%ほど存在した.樹幹に生育していた主な蘚苔類はサヤゴケとコモチイトゴケの蘚類2種で,ウロコゴケ目の苔類がしばしば混在していた.胞子体の形成の前後では蘚苔類の種組成や群落形態はほとんど変化しなかった.
胞子体の形成に伴って蘚苔類群落の種組成や形態に変化がなかったことから,蘚苔類群落の動態が胞子体の形成に影響を与えている可能性は低い.したがって,胞子体が蘚類群落内に多いのは,被陰の影響を受けながらも蘚類群落内で生存し続けた前葉体のみが胞子体を形成できることを意味する.前葉体より高い位置に葉を展開する蘚苔類群落内では,前葉体は被陰による生育阻害の影響を受けるが,蘚苔類群落が水分を保持することや,前葉体が樹幹表面から流亡するのを抑制するため,むき出しの樹皮表面に比べて着生シダの定着が容易になっている可能性がある.