| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) F1-23 (Oral presentation)

東北地方のアカマツ天然林におけるマツ材線虫病によるアカマツ遺伝資源の10年間の変化

*木村恵(森総研林育セ),岩泉正和(森総研林育セ関西),那須仁弥,宮本尚子,大谷雅人,山田浩雄,生方正俊(森総研林育セ)

マツノザイセンチュウは北米原産の外来生物で、アカマツ、クロマツなどに侵入しマツ材線虫病を引き起こす。日本では1905年に長崎で確認されて以来、西日本で壊滅的な被害を引き起こし、近年は高緯度、高標高地域での被害拡大が報告されている。被害木の枯死は林分のバイオマスと遺伝的多様性の減少を招くため、たとえ被害跡地にマツが更新しても遺伝的多様性は回復しないおそれがある。そこで本研究では阿武隈高地森林生物遺伝資源保存林に0.28haのプロットを設定し、プロット内に生育するアカマツ(Pinus densiflora)について2001~2013年までのバイオマス(本数、胸高断面積)の変化と核SSR 8遺伝子座を用いて遺伝的多様性の変化を調べた。胸高直径5cm以上のアカマツは181本存在し、直径階分布は胸高直径30cmクラスにピークを持つ一山型を示した。調査期間内での新規加入個体はみられず、個体数は徐々に減少し2013年には121本となった。また、胸高断面積合計も2006年以降の個体の成長量の低下とマツ材線虫病による枯死木の増加によって減少した。核SSRを用いた親子解析から、2003~2007年にプロット内に散布された種子の16%を生産した個体が、その後枯死木したことがわかった。遺伝的多様性(対立遺伝子数、ヘテロ接合度)には大きな変化はみられず、枯死によって失われた対立遺伝子は全体の2%程度であった。この林分では10年間でアカマツの遺伝的多様性に大きな変化は見られなかったが個体数、バイオマスは減少し、将来的には種子生産量にも影響を及ぼすことが懸念された。


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