| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(口頭発表) F1-24 (Oral presentation)
温帯域に生育する高木種の開葉時期は、樹木個体間の光の獲得をめぐる競争(生物的要因)と春期の降霜などによる撹乱・ストレス(物理的要因)とが関わる自然選択によって進化してきた。樹木の開葉時期は観測が比較的容易であり、開葉時期の年変異に及ぼす気温の影響や地域変異に及ぼす遺伝的要因についての知見が蓄積されている。しかしながら、どのような環境要因が開葉時期の進化に重要な役割を果たしているのかについてはあまり解明されていない。今回は、多雪山地で優占するブナを対象に、開葉に要する積算温量の場所間変異の実態および積算温量と春期の環境要因(降霜頻度、消雪時期)等との関係を解明するため、青森県・八甲田連峰の12地点で4年間行った調査の結果を報告する。有効積算温量法で推定した各地点のブナの開葉に要する積算温量は207~344℃・日(起算日1/1、限界温度0℃)であり、大きな場所間変異が認められた。各地点の積算温量は、降霜頻度(開葉が可能な時期に発生した降霜の頻度の年平均値)が多い地点、及び消雪期間(開葉が可能な時期に残雪が認められた期間の年平均値)が長い地点で大きくなる傾向が認められた。このことから、晩春の降霜(凍害)と積雪(低温による根の活動の抑制)がブナの開葉を遅らせる自然選択をもたらしていると考えられる。積算温量については有意な年度間変異も認められ、消雪時期の遅い場所で年度間変異の程度が大きくなる傾向が認められた。ブナの開葉に要する積算温量もしくはその値を決める限界温度は同一集団内においても完全には固定されておらず、可塑性も持つことが示唆される。