| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(口頭発表) G1-20 (Oral presentation)
表現型可塑性は、生物が変動環境に適応する能力である。一般に形態による可塑的防衛は、行動の可塑性よりも誘導のためのコストがかかるとされている。そのため生物は、環境中に捕食者がいるときにだけ食われにくい形態を誘導することがよく知られている。しかし実際には、捕食者がいても防衛形態を誘導しないなど、表現型可塑性には大きな変異が見られる。
本研究は、ミジンコの可塑的な形態防衛に、湖沼生態学の理論のひとつである「サイズ効率仮説(SEH)」をあてはめることにより、可塑性の変異が何に起因しているのかを明らかにすることを目的とした。SEHは、プランクトンの捕食者はサイズ依存の捕食様式をもち、視覚捕食者である魚は大きいプランクトンを、口器サイズに依存するフサカ幼虫は小さいプランクトンを餌として選好する結果、湖沼のプランクトン群集の組成が変化することを説明する。SHEの視点から可塑性を考えると、大きいプランクトンはフサカ幼虫よりも魚に対して、小さいプランクトンは魚よりフサカ幼虫に対して、被食防衛の可塑性を発現すると予測される。また、プランクトンのサイズは、種間だけでなく、成長段階によっても変化する。本研究では、体サイズの異なるミジンコ(Daphia)2種(小さいサイズのD. ambigua, 大きいサイズのD. pulex)を異なる捕食者のカイロモンに曝露して飼育し、成長段階ごとの形態を主成分分析により定量化して、可塑的な形態変化の程度を求めた。その結果、ミジンコの可塑性の大きさは体サイズに依存する傾向があり、ある捕食者に対して食われやすいサイズでは可塑性が大きく、小さすぎたり大きすぎたりして食われにくいサイズでは可塑性が小さくなるという効率的な誘導防衛をしていることがわかった。