| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(口頭発表) G1-21 (Oral presentation)
今から10年前、社会性昆虫の研究は「性」の研究であるという総説を書いた(松浦 2005, 日本生態学会誌 55: 227-241)。真社会性昆虫の社会は血縁者に対する利他行動で成立しており、血縁度の側面からみれば、コロニー内血縁度の低下を招く有性生殖よりも、単為生殖の方が有利なはずである。よって、なぜ「性」が必要なのかという問いは、社会性昆虫においてより興味深い問題となる。4年後の2009年に、我々はヤマトシロアリの女王が有性生殖と単為生殖を使い分け、後継女王を産雌単為生殖で生産し、ワーカーや羽アリを有性生殖で生産していることを発見した(Matsuura et al. 2009, Science)。この「性」と「無性」を自在に使い分けるAsexual Queen Succession (AQS)の発見は、社会性昆虫における「性」の意義とは何かを如実に示すものであった。以後、北米のReticulitermes virginicus、イタリアのR. lucifugus、さらに南米の高等シロアリCavitermes tuberosus やEmbiratermes neotenicus でもAQSが相次いで判明し、性と無性の使い分けが幅広く見られることが分かってきた。分岐年代推定によれば、1000万年~2000万年前にそれぞれ独立にAQSが起源したと考えられる。また、王と交尾をしているにも関わらず、なぜ女王は単為生殖卵を産むことができるのか、その背景にある授精コントロールのメカニズムが解明され(Yashiro and Matsuura 2014, PNAS)、単為生殖の娘が優先的に二次女王に分化できる仕組みについても明らかになりつつある。これまでに分かったAQSの仕組みを紹介するとともに、社会性昆虫にとっての「性」とは何かについて議論したい。