| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-32 (Oral presentation)

見えない木材分解者:子実体採集,分離培養,環境DNA解析が明らかにする未知の菌類多様性

*白水貴,宇野邦彦,保坂健太郎,細矢剛(科博・植物)

真菌類の多様性調査法は,古くは子実体採集(FBC)に始まり,培地を用いた分離培養(CI),環境DNA解析(EDA)と,技術の進歩とともに発達してきた.これらの方法にはそれぞれ利点と欠点があり,一つをもってある生態系における全真菌類を把握することは困難である.複数方法を用いることで検出される系統の多様性は上昇するが,これらの方法の比較はほとんどなされておらず,有効な併用法についても十分検討されていない.本研究では,腐生菌の多様性を効率的に探索する方法の確立を目的とし,FBC,CI,EDAの比較を行った.木材腐朽性担子菌であるアカキクラゲ綱を対象とし,筑波山のアカマツ林(40m×40m)にて1年間毎月調査を行い,アカキクラゲ様子実体(FBC),およびアカマツ腐朽枝を採集した.腐朽枝は粉砕後,湿式振とうふるい機にかけて大きさ100–200 µmの粒子を回収した.粒子は洗浄後,麦芽寒天培地入りのマイクロプレート(48ウェル×132枚)に1ウェルあたり2粒子ずつ分注して培養し,出現したアカキクラゲ様コロニーを分離した(CI).また,腐朽枝の粒子1gからDNAを抽出し,28S rRNA遺伝子領域を増幅後,DNAクローニング(腐朽枝132本×10クローン)を経て配列を決定した(EDA).結果,FBC,CI,EDAにて11,10,16 OTUが得られ,このうち4,4,6 OTUがそれぞれの方法でのみ検出された.すなわち,3つの方法は多様性探索において相補的であった.また,FBCの新規OTU検出数は10回目の調査でほぼ飽和し,CIとEDAでのみ未知の初期分岐系統が3つ検出された.このことから,FBCでは重要な系統を見落としている可能性がある.これらの未知系統に対しては,EDAによる1次調査とCIによる2次調査の2段階調査により,検出効率を最大化できると考える.


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