| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(口頭発表) J2-27 (Oral presentation)
構造色とは,微細な物理的構造による光の回折・屈折・干渉・散乱によってもたらされる発色現象のことを指し,タマムシやカワセミなど,金属光沢の構造色を持つ生物は広い分類群で知られている.コウチュウ目の構造色多型はしばしば地理的変異を示すことから,分類指標として用いられることもあり,多くの研究者の注目を集めてきたものの,対象生物の採集と交配実験の難しさが重なり,適応的意義はおろか遺伝様式すらほぼ未解明のままである.我々はサツマイモの世界的な害虫で,構造色多型を持つ体長約6mmのコウチュウ目であるアリモドキゾウムシ (Cylas formicarius) を材料に,コウチュウ目に普遍的な構造色多型の遺伝メカニズムの解明を目指す.本種の鞘翅には緑-青-紫の構造色の色彩多型が存在し,飼育や色彩に関する選抜が容易といった利点がある.沖縄県で実施されている不妊虫放飼法を利用した本種の根絶防除事業ではこうした特徴を活かし,野外でまれな鞘翅の色彩系統(紫)を選抜して大量増殖し不妊虫として放飼することで,野生虫と不妊の大量増殖虫の簡便な判別を可能にしている.しかし近年,まれに出現する野生虫と不妊虫の中間的な色彩を持つ個体が判別を困難にさせており,生物学的な課題としてだけではなく,農業現場における応用的観点からも構造色多型の解明が期待されている.本研究では,アリモドキゾウムシの鞘翅が持つ構造色多型の遺伝様式を明らかにするため,アリモドキゾウムシの異なる鞘翅の色彩を持つ系統の雌雄を交配して次世代を得た後,親子それぞれの鞘翅の反射スペクトルを測定し,構造色多型を定量的に解析した.講演では反射スペクトルを親子で比較し,アリモドキゾウムシの鞘翅が持つ構造色多型の遺伝様式と多型の維持機構について議論する.