| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-067 (Poster presentation)
樹木の耐陰性(低光環境下で生存する能力)は、種の戦略や森林の動態を特徴づける重要な特性であり、種間の耐陰性のバリエーションやその生理的メカニズムについて多くの研究がされてきた。耐陰性の種間差は、個体の光・炭素要求度に関わる形質(バイオマスの配分・葉寿命・暗呼吸速度など)の違いによって生み出されることが知られている。一方で、土壌栄養など光以外の要因もこれらの形質に影響するため、栄養環境の異なる森林では、樹木の耐陰性は大きく変化すると予想できる。しかし、土壌栄養と耐陰性との関係は、これまでほとんど実証されていない。そこで本研究では、ボルネオ熱帯林樹種をモデルとして、異なる栄養環境への適応が樹木の耐陰性に与える影響を調べることを目的とした。
栄養塩可給性の異なる3カ所の熱帯林 (富栄養・中間・貧栄養)で優占する13種を対象とした。各種について様々な光環境下の稚樹を40個体以上選定し、16ヶ月間の生存率を調べた。光環境を定量的に評価するため、各個体の上で全天写真を撮影しGlobal site factorを計算した。GLMMによってGlobal site factorが5%の時の生存率を推定し、耐陰性の指標とした。さらに栄養塩環境が耐陰性に影響するメカニズムを調べるため、暗環境でのバイオマス配分、葉のC,N,P濃度、葉群動態を調べた。結果として、貧栄養サイトの樹種は、暗環境で90%以上の生存率を示し、他の2サイトと比べ高い耐陰性を示した。また、貧栄養サイトの樹種は、暗環境での根へのバイオマス配分や葉の炭素濃度が高く、葉の回転率が遅い傾向が見られた。これらの形質は貯蔵炭素濃度の増加や炭素要求度の低下と関係するため、貧栄養環境に生育する種は高い耐陰性を示したと考えられる。以上の結果は、貧栄養環境への適応は、生理的なメカニズムを介して耐陰性を上昇させることを示している。