| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-070 (Poster presentation)
一般的に、尾根では谷よりも樹高が低いことが知られている。この原因として、乾燥ストレスや風による力学的制約が挙げられる。特に後者に関しては、定量的な評価が乏しく、その影響はよくわかっていない。尾根では風当たりが強く、幹で発生するストレス(応力)に耐えるように、力学的に安全な樹形をもつと考えられる。昨年度までの研究では、樹高や樹冠投影面積などから、樹形を考慮した力学モデルを作成し、力学的安全率(=材の強度/応力)の風速依存性を計算した。その結果、尾根・谷の風速を同じと仮定した場合、尾根の樹木は、谷の樹木よりも幹直径あたりの樹高や樹冠投影面積が小さく、力学的安全率が高いことが示唆された。しかし実際には、尾根・谷間の風環境は異なっており、樹木がどの程度の応力を受けているかはわからない。そこで本研究では、幹のひずみ(伸縮率)測定により、幹に発生している応力を直接観測し、尾根・谷間の樹形の違いと風に対する力学的安全率の関係を評価した。
本研究は、京都府南部の山城試験地で実施した。尾根・谷に生育するコナラ、ソヨゴの2種、35個体について、幹のひずみ観測を行い、同時に尾根の一点で森林の代表値として風速の観測を行った。尾根・谷の風速を同じと仮定とした力学モデルでは、尾根の樹木の方が谷の樹木よりも安全率が高いと評価されていたが、実際のひずみ観測からは尾根・谷の樹木間で安全率に大きな差はみられなかった。つまり、谷の樹木は尾根の樹木に比べると、不安定な樹形をもつが、風当たりが弱いために、安全率では同程度であることが示唆された。これらの結果は、樹形の違いにおいて、風による力学的制約の重要性を示すものである。