| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-081 (Poster presentation)

樹木の養分再吸収率と成長戦略との関係

*川邊瑞穂,黒川紘子,中静透

植物の栄養塩利用特性は生活史戦略の中で重要な役割を果たす。例えば、落葉時の栄養塩再吸収は、利用可能な栄養塩が少ない場所で栄養塩を効率よく使うための重要な機構である。一方、成長や光合成速度の遅い種は、寿命の長い葉を持つことで、栄養塩の保持期間を長くできるだろう。しかしながら、樹木の成長速度や光合成速度、葉の寿命や防衛投資といった成長戦略と栄養塩利用特性を網羅的に解析した研究は多くない。

この研究では、日本産常緑樹44種と落葉樹56種の生葉と落葉の窒素、リンの含有量を測定し、生葉中の栄養塩が落葉時に引き戻された割合を示す再吸収効率(RE:resorption efficiency)と、落葉中にどれほど栄養塩が残っているかを示す再吸収プロフィシェンシー(RP:resorption proficiency)を計算した。さらに成長や寿命、被食防衛に関わる葉の機能形質(LMA, 葉の窒素濃度、葉の強度、総フェノール濃度、縮合タンニン濃度、リグニン濃度など)とREおよびRPとの関係を明らかにし、栄養塩利用特性と成長戦略との関係を検討した。

その結果、全体としては、REは生葉のLMAが低く窒素濃度が高い程、また生葉の強度や面積あたりのリグニン濃度が低い程高い傾向にあることが分かった。つまり、光合成速度が速い種のREは高く、逆に光合成速度は遅いが丈夫で寿命の長い葉を持つ種のREは低いということである。一方、個体の成長速度を指標する材密度とREとの間には有意な関係はみられなかった。RPは機能形質との関係において、REとは概ね逆のパタンを示した。常緑樹と落葉樹に分けて解析すると、落葉樹のREは生葉の強度や面積あたりのリグニン濃度と負の相関、つまり丈夫で寿命が長い葉を持つ種ほどREが低い、という全体と同じ傾向を示したが、常緑樹のREは生葉の窒素濃度と弱い正の相関関係にあるものの、葉の寿命などに関係する形質とは関係が見られなかった。


日本生態学会