| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-085 (Poster presentation)
演者等は、これまで福島原発事故に伴った森林への放射性物質の蓄積状況について、福島県北部山林域に分布するモミ(A. firma)に焦点を当て、本種の葉の開出時期(当年葉と前年葉)と放射性物質蓄積の関係について調査を行ってきた。その結果、当年葉と前年葉の間で放射性セシウム濃度に有意差があることを明らかにし、樹体内における放射性セシウムの再転流及びこの再転流には枝の伸長成長が関わっている可能性を指摘した。そこで本研究では、モミの個体や個体群レベルでの放射性セシウム蓄積の空間分布を明らかにすることを目標に、当年葉への放射性セシウム輸送と枝の伸長成長との関係を明らかにすることを試みた。
一般的に、モミは前年枝の先端に形成された冬芽から1~数本の当年枝を伸長させ、それら枝間は約60度に二~三叉分枝する。三叉分枝の場合、明らかに主軸と側枝では伸長成長に差が見られることから、本研究では三叉分枝している枝に焦点を当て、当年枝と前年枝、さらに主軸と側枝に分け、枝の伸長量及び葉の放射性セシウム濃度を測定し、その関係について分析を行った。
その結果、前年葉主軸から伸長していた当年葉の放射性セシウム濃度が前年葉側枝の当年葉よりも有意に高く、放射性セシウム量も約2倍多く含まれていたことが分かった。このことは、放射性セシウム濃度は伸長した枝の属性(主軸か側枝か)に依存していること、即ち放射性セシウム濃度と枝の伸長速度が深く関わっていることを示している。このような個体レベルでの放射性セシウム蓄積の偏在性を解明することは、森林生態系内での放射性セシウムの挙動解明へとスケールアップを考える上で重要な足がかりとなり得ると考えられる。