| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-089 (Poster presentation)
樹木の年輪中のセルロースは葉の光合成産物を材料として作られるため,その炭素安定同位体比(δ13C)と酸素安定同位体比(δ18O)は光合成産物が作られた時の環境条件とそれに対する樹木の生理的応答を記録している.したがって,熱帯樹木の環境応答履歴を解明するのに有用であることが期待できる.しかし,季節変動が少ない熱帯の樹木では明確な年輪が形成されないため,木部形成年代の木部形成年代の推定を行う必要がある.そこで本研究では,微気象データと樹冠上の二酸化炭素・水蒸気フラックスデータが揃う半島マレーシア・パソ熱帯雨林に生育するフタバガキ科樹木2個体の木部セルロースのδ13Cとδ18Oを高解像度測定し,それらの値と降水量等の環境条件との関係から木部形成年代を推定した上で熱帯樹木の環境応答履歴の抽出を行った.微気象データと樹冠上の水蒸気フラックスデータからモデルを用いて木部セルロースのδ18Oの支配要因を推定した結果,熱帯樹木の木部セルロースのδ18Oは主に降水のδ18Oを反映することが分かった.その降水のδ18Oと降水量に負の相関があったことを利用し,木部形成年代を推定した.木部セルロースのδ13Cを決定する光合成産物のδ13Cは葉の内的水利用効率を反映する.樹冠上の二酸化炭素・水蒸気フラックスから算出した群落の内的水利用効率は土壌水分量の低下に伴い上昇していたことに基づき,木部セルロースのδ13Cの変動から土壌水分量の変動に対する内的水利用効率の応答の履歴を推定した.