| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-092 (Poster presentation)

散水実験による熱帯性落葉樹の個葉ガス交換特性の土壌水分への応答の解明

*落合拓朗(三重大・生資),松尾奈緒子(三重大・生資),吉藤奈津子(京大・農),鎌倉真衣(京大・農),山本心平(京大・農),田中延亮(東大・農),チャチャイ・タンタシリン(カセ大・林),田中克典(JAMSTEC)

タイ北部の落葉性チーク林では,モンスーンにより乾季(概ね11月~4月)と雨季が存在し,その開始・終了時期が年々変動することで展葉・落葉時期も年々変動する.着葉期間の変化は地域の水・炭素循環に大きな影響を与えるため,その決定要因の解明は重要課題である.本研究では,決定要因のひとつであると考えられる土壌水分量が展葉・落葉時期や個葉ガス交換特性に与える影響を解明することを目的として原位置散水実験を行った.チーク2個体を対象として,それぞれ乾季中である2013年3月5日と2014年3月2日から散水を開始し,土壌体積含水率が14%を下回らないよう2015年2月現在まで散水を継続している.また,自然条件下の2個体を対照木とした.

樹液流速度が正になるタイミングを展葉開始とみなすと,散水木は3月初旬に対照木よりも約45日早く展葉を開始した.また停止が5~15日遅かったことから落葉も遅かったと考えられる.さらに,その落葉の20日後,対照木よりも1ヶ月以上早く次の展葉を開始した.これらのことから,土壌水分量がタイ北部のチーク林の展葉・落葉時期,したがって着葉期間を決定していると考えられた.成熟葉の葉面積あたりの乾燥重量は対照木よりも散水木の方が散水初年度は小さかった.また,成熟葉の炭素安定同位体比は対照木よりも散水木の方が低かったことから,散水木では内的水利用効率が低下していたことがわかった.葉の乾燥重量あたりの窒素含有量は対照木では雨季終了後すぐの11月に低下し始めたのに対し,散水木ではその1ヶ月後の12月に低下し始めた.以上のことから,土壌水分量は葉の水利用効率や老化時期に影響を与えることが示唆された.


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