| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-001 (Poster presentation)

なぜ、亜高山帯の渓畔林は貧弱なのか?-南アルプス亜高山帯渓流域における針葉樹林への遷移動態-

*近藤博史, 酒井暁子, 金子信博(横浜国大・院・環境情報), 森也寸志(岡山大・院・環境生命)

日本の亜高山性針葉樹は遷移後期種であり安定立地での分布が一般的である。一方、亜高山帯の渓畔域ではヤナギ・ハンノキ属が優占するが、その渓畔域にも針葉樹が優占しており、遷移後期種が安定立地だけでなく、地表攪乱の多い立地でも生育している。しかし、亜高山針葉樹の渓畔域での生育状況や亜高山渓畔域の遷移動態についてはよくわかっていない。本研究では亜高山帯の斜面と渓畔域に成立するそれぞれ林齢の異なる林分や撹乱後の開放裸地で、個体群構造や樹木の成長量を調べ、斜面と渓畔域で遷移動態の違いを検証した。斜面はほぼ針葉樹で構成され、一部先駆種の優占するタイプが見られた。渓畔域はオオバヤナギと針葉樹が優占する2タイプが見られた。攪乱開放裸地ではヤナギ・ハンノキ属、カラマツの稚樹が多い一方で、遷移後期種のシラビソ、コメツガの稚樹も多かった。渓畔域と斜面でのシラビソの成長速度には明確な差がみられ、渓畔域で速い結果となった。土壌は斜面に比べ渓畔域で粒径が粗く、その結果、乾燥しやすい傾向や土壌養分が少ない可能性が考えられた。そういった環境にも関わらず、乾燥や貧栄養に弱いシラビソが渓畔域で高い成長率を示した要因として、渓畔域の湿潤に保たれやすい環境や、他種による成長促進効果が考えられた。したがって、シラビソは開放裸地でも十分に定着・生育可能であり、その後の成長も良好であることから渓畔域は成長を阻害する場ではなく、むしろ成長を促進させることが示唆された。それらより、亜高山帯渓畔域では地表攪乱後、極相状態に至る時間が斜面に比べ短いと推測され、さらに渓畔林構成種の少なさも影響して、ヤナギ属と針葉樹の優占する2パターンのみが目立ち、貧相な植生景観になると結論した。


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