| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-021 (Poster presentation)
降雪量の多い白山では,初夏でも雪田が広がる.白山の山地帯上部から高山帯にかけて,ナナカマド,ウラジロナナカマド(以下,ウラジロ),タカネナナカマド(以下,タカネ)のナナカマド属(バラ科)3樹種が分布する.植物の垂直分布には標高が強く影響するが,高標高に広がる高山帯や亜高山帯における植物種の分布には,標高のみならず融雪時期が強く影響する.すなわち,融雪の早い場所は風衝地,融雪の遅い場所は雪田と呼ばれ,それぞれに異なる植生が形成される.ウラジロとタカネの生育地は,森林限界付近の尾根や窪地とされ,それぞれの個体の生育場所における融雪時期には個体間や年度間で差が生じるであろう.また,各樹種の生育場所がいずれかの地形に偏っていれば,両樹種の分布は標高の上昇による生育環境の変化に加えて,融雪時期の影響を受けると予測される.各樹種については,地理的分布や分布する森林帯について知られており,植物社会学的群集の区分種として扱われるほど重要な位置づけにあるものの,生育環境の詳細については定量的なデータに基づいて示されていない.今回,3樹種の生育環境を明らかにするために,標高1,348m~2,634mに生育する約300個体を対象に,生育地点の標高,融雪時期を調べた.2012年における融雪時期をみると,ウラジロでは41%の個体の根元が6月23日までに融雪したが,遅い個体では7月19日に融雪し,融雪時期の個体間差は約30日であった.一方,ナナカマドとタカネではほとんどの個体の根元が6月23日までに融雪し,遅くまで残雪のある場所には生育していなかった.ナナカマは低い標高からウラジロが生育する標高までの融雪が早い場所に,ウラジロは比較的標高が低く融雪が遅い雪田に,タカネはより標高が高く融雪が早い風衝地にそれぞれ偏って生育していた.