| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-058 (Poster presentation)
亜高山帯針葉樹林では,風衝地に生育する個体で風上側の枝の成長が著しく阻害されたり,個体全体が枯死する現象が観察される.これらは冬期に受ける環境ストレスが原因であることが示唆されているが,具体的な要因についてはまだ明らかになっていない.これまで,針葉樹でも,強い水ストレス下にあると凍結融解によって木部エンボリズムが生じることが知られている.本研究では,縞枯山の風衝地の最前線に分布するシラビソの分枝方向の異なる枝を対象に, 2014年3月(冬期)と7月(夏期)に木部のエンボリズムの程度を調査し,葉の水分状態や枝の形態,着葉量との関係を調べた.
その結果,冬期に,風上側,風下側の枝ともに基部側ではエンボリズムが木部横断面比で40~60%程度だったのに対し,枝の先端に位置する1年枝では80~100%であり,木部はほとんど通水していなかった.また,枝の分岐方向によらず,葉の水ポテンシャルは約-3MPaであった.一方,夏期には風上側,風下側の枝ともに基部側のエンボリズムは冬期と同程度であったが,1年枝の大半はエンボリズムが30%以下であり,葉の水ポテンシャルも-0.5MPaまで回復していた.葉の性質(LMA,炭素安定同位体比,窒素含有率)は,風上側の枝と風下側の枝で顕著な違いは認められなかった.以上より,枝先端部の冬期の木部エンボリズムは強い水ストレス下で生じており,これには,冬期の土壌凍結に伴う根の吸水停止と枝先端における凍結融解の繰り返しの両者が関与していると考えられた.また,翌春の木部エンボリズムは分枝方向によらず回復することが明らかとなったが,そのメカニズムや風上側の枝の衰退との関連については更なる研究を要する.