| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-061 (Poster presentation)
落葉広葉樹林の林床に生育する植物にとって、林冠木による被陰は光合成生産を制限する最も大きな生態学的要因である。本研究では林床に生育する落葉低木の葉の形態的・生理的特性のフェノロジーと光環境の季節変化の関係を明らかにすることを目的とした。
調査は岐阜大学流域圏科学研究センター高山試験地の冷温帯落葉広葉樹林で行い、対象樹種は林床の主要樹種であるノリウツギとオオカメノキとした。光環境の季節変化を全天写真と光量子センサーによって観測しながら、両樹種の生理的特性(クロロフィル含量)、形態的特性(葉面積、LMA)の変化を追跡した。また夏には光-光合成曲線を測定した。
調査した森林では林冠木は6月1日から10月28日まで葉を着けており、林床への1日の入射光量は林冠閉鎖前の10%以下であった。オオカメノキは林冠閉鎖の34日前に開葉し、展葉初期からクロロフィル含量は高かった。ノリウツギは林冠閉鎖の19日前に開葉し、クロロフィル含量は展葉初期には低かったが、クロロフィル含量と葉面積ともに短期間で成長し、夏の個葉光合成能はノリウツギの方がオオカメノキよりも高かった。両樹種とも林冠木が落葉する前の10月上旬に落葉した。クロロフィル含量や葉面積、光環境の季節変化から生育期間中の光合成生産力を推定したところ、林冠が閉鎖する前の光合成生産量は生育期間全体のうち、ノリウツギで15%、オオカメノキで23%だった。これらのことから、オオカメノキは雪解け後にいち早く展葉することにより光合成生産量を稼ぎ、一方、ノリウツギは弱光環境でも効率的に光合成生産量を稼ぐことにより、林床での成長・生存を可能にしていることが示唆された。