| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-078 (Poster presentation)
多くの被子植物の通水組織である道管を水が通る際には,ふたつの通水抵抗が存在する.ひとつは道管内腔を通る際の抵抗RLである.RLはHagen-Poiseuilleの法則により求められ,道管径の4乗に反比例するものである.もう一方は,道管同士をつなぐ壁孔を通る際の抵抗RWで,この値は道管長と道管同士の接触面積に反比例するとされている.平均道管径の異なる様々な種において,これら二つの通水抵抗は木部全体ではほぼ1: 1になることが知られている.一方で,一つの木部内においても大きな道管径のばらつきが存在し,こうした木部内の径が異なる道管においてもRL: RWが維持されるのかはわかっていない.
本研究ではこの疑問に答えるために,まず木部全体のRLとRWを測定した.次に,個体内における道管径と道管長さ,道管同士の接触面積の関係を測定することで,道管径とRL/ RWの関係を推定した.実験には,環孔材種のヤマグワMorus australisとヤマブドウVitis coignetiae,散孔材種のウリハダカエデAcer rufinerveの当年生枝を用いた.
その結果,木部全体のRLとRWはおおむね1: 1になっていた.しかし,木部内の個々の道管でみると,RLとRWの比は道管径Dの指数関数で回帰すると,ヤマグワではD1.24,ヤマブドウではD0.77,ウリハダカエデではD-2.86に比例していた.このことは,径の異なる個々の道管に対して,RL: RWは維持されていないことを示す.これらのべき指数は,通水への寄与が大きい最も太い道管でRLとRWの比が1であるとすると,細い道管において,ヤマグワとヤマブドウではRW>RL,ウリハダカエデではRL>RWの傾向にあることを意味する.これらの結果に加え,道管の分岐様式を考慮することで,本研究の妥当性と径の異なる道管の役割についても考察したい.