| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-085 (Poster presentation)
熱帯地域を中心に生育しているイチジク属のなかでも、アコウは比較的に高緯度にまで分布している。イチジク属はコバチとの送粉共生でよく知られ、コバチを果嚢で養うために年間のどの時期においても個体群のいずれかの個体が結実する必要がある。しかし分布北限域にあたる四国南部では、創始者効果による遺伝的多様性の低下や冬期の低温のために、周年結実ができていない可能性がある。そこで足摺岬および室戸岬のアコウ個体群について、それぞれ80個体ほどを3週間ごとに2年半にわたって観察するとともに、沖縄から九州・四国に生育する個体群について遺伝的多様性を調べた。個体群の結実特性と遺伝的な特徴について、過去に同様の調査をおこなった屋久島西部の個体群とあわせて考察した。
これまで足摺・室戸個体群ともに結実個体がゼロになる調査時点はなく、通年結実は維持されていた。また3月から6月に開花・結実のピークがあり、8月にも再び結実個体が増えるというパターンが観察された。屋久島では年3回のピークがあったことに比べると、四国南部では各個体が時期的により集中して結実していることが示唆された。各個体の結実パターンをもとにK-means法によって分類すると、屋久島では認められた「冬期に規則的に結実する個体」が足摺・室戸の両個体群ではみられなかった。16座のマイクロサテライトによって各個体群の遺伝的特徴をみると、足摺・室戸個体群は地理的な配置と同じように九州の辺縁部に位置づけられ、屋久島・足摺・室戸の順に遺伝的多様性が下がった。北限域においても各個体が開花時期をずらしながら個体群としての周年結実を維持していることがわかったが、周年結実の安定性は個体群の遺伝的多様性に支えられている可能性が示された。