| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-103 (Poster presentation)

サクラソウ属クリンソウの異型花柱性の喪失

*下野綾子(筑波大・遺セ), 上野真義(森林総研), 田中健太(筑波大・菅 平), 大澤良(筑波大・生命)

サクラソウ属は異型花柱性という特殊な交配システムを持つことが知られている。種内に柱頭が葯より高い長花柱花、柱頭が葯より低い短花柱花の2つの花型を持ち、異なる花型間での送粉により種子が稔る自家・同型不和合性を示す。一方、サクラソウ属の1種クリンソウ(Primula japonica)は、異型花柱性が崩壊し、自家和合性を有する等花柱花であることが報告されている。しかし、中には異型花からなる集団も報告されていることから、今まさに他殖から自殖への繁殖システムの移行が起きている種と考えられる。異型花柱性の喪失により自殖が優位となれば、遺伝的多様性が減少し絶滅リスクが高まると考えられる。そこで本研究では、クリンソウの異型花柱性崩壊の現状について調査するとともに、集団内・集団間の遺伝的多様性の程度を評価した。北海道から兵庫県にわたる10集団の花型の現状を調査したところ、8集団が等花柱花、1集団が長花柱花のみ、1集団が短花柱花のみからなる集団であった。この長花柱花のみ、短花柱花のみの集団でも、放任および袋掛けの個体ともに種子が生産されることから、異型花の形状を示す個体でも自家・同型不和合性は喪失していると考えられた。さらにEST-SSRマーカー9座を開発し、各集団30-40個体の遺伝子型を決定したところ、各集団の平均対立遺伝子数は1.4~3.6と、集団内の遺伝的多様性は低い傾向が見られた。見出された遺伝的変異が、集団間、集団内のそれぞれにどの程度見られるのかAMOVA を行った結果、74%が集団間に、26%が集団内に存在し、集団間の遺伝的分化程度が大きかった。自殖能力の獲得により近親交配が進み集団内の多様性が低くなっている一方で、各集団間の遺伝的分化が進んでいる可能性が示唆された。


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