| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-146 (Poster presentation)
長野県北部の多雪地ブナ林に設置した1haのプロット内の樹木個体群(樹高≧0.3m、18樹種342幹)を対象に展葉フェノロジーを調べた。フェノロジーの観察は2014年5月下旬〜7月中旬に3〜9日の間隔で計8回、幹毎に行い、未開芽・開芽・展葉開始・展葉完了のうち最も進んだ段階と、その全葉量に占める割合を目視により1〜100%で記録した。得られたフェノロジーデータから幹毎に展葉の開始日と完了日を推定し、両者の日数差を“展葉日数”として算出した。また、残雪深をプロット内全域において5月下旬から完全消雪まで計3回測定した。
調査の結果、上層幹(樹高≧10m)は調査開始時(5月27日)、47本中41本が既に展葉開始段階にあり、12日後(6月8日)には全てが展葉を終えていた。一方、同開始時に未開芽ないし開芽段階にあった下層幹(<10m)の全ての展葉完了を確認したのは同開始49日後(7月15日)と、上層幹より37日遅くなっていた。
ブナ下層幹の展葉日数は平均34日で、調査幹8樹種中(幹数>5本)3番目と短く、残雪量が多い地点ほどさらに短くなっていた。このことからブナ下層幹は消雪後、他樹種に先んじて素速く展葉を行っていると考えられる。
残雪量は林冠ギャップ下よりも閉鎖林冠下の方が少なかったことから、雪融けは閉鎖林冠下の方が早いことが推察された。その要因として、樹幹密度がギャップ下よりも高い閉鎖林冠下では、立木の周りから融雪する“根開け”の効果がギャップ下より大きいためと考えられる。以上から、林冠ギャップ下での遅い消雪は下層木全ての展葉を物理的に遅らせるものの、ブナは、他樹種より素速い展葉をすることで、多雪地において優占林分を形成する上で有利であることが示唆された。