| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-156 (Poster presentation)

種子散布共生系の維持メカニズム:報酬のタダ食いに対する種子表面物質を用いた補償

田中弘毅(鹿児島連農),*木下智章(佐賀大・農),山尾僚(九大・理・生物)

共生系には、相手から利益を受けながら自らは利益を提供しない「搾取者」が存在し、様々な共生系の存続を脅かしている。搾取者の存在下で共生系が維持されるメカニズムを知ることは、共生系を理解する上で重要である。種子散布者となる動物と植物の間にみられる種子散布共生系でも、植物が散布者に提供する報酬を「タダ食い」、つまり食べるだけで種子を運ばない搾取者が広くみられる。しかし、搾取者への対抗戦略について多くの研究がなされてきた他の共生系と比べ、種子散布共生系では搾取者存在条件下でどの様に共生関係が維持されているのか分かっていない。

ホトケノザ(シソ科)はアリを介して種子を散布する一年草で、種子にアリへの報酬であるエライオソームをもつ。エライオソームはダンゴムシやナメクジ、ゴミムシといった動物にも消費されるが、アリ以外の動物はいずれもエライオソームをその場で消費するだけで、種子散布に貢献しない。報酬をタダ食いするこれら搾取者に対するホトケノザの対抗戦略として、本研究では種子表面に薄く広がる膜状物質(種子表面物質)に着目した。まず、搾取者が種子表面物質を消費するかどうか確認したところ、搾取者はエライオソームのみを消費し、種子表面物質を食べ残すことが分かった。次に、主要散布者のトビイロシワアリを用いて種子の非選択実験を行ったところ、アリに対する種子の誘引度はエライオソームと種子表面物質を両方もつ種子が最も高く、続いて種子表面物質だけ残った種子、エライオソームと種子表面物質の両方が消失した種子、の順に低下した。これらの結果から、種子表面物質は搾取者に対する対抗戦略として機能しており、ホトケノザとアリとの種子散布共生系の維持に貢献していると考えられる。


日本生態学会