| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-159 (Poster presentation)

アリ植物オオバギ属に共生するシリアゲアリ類の核DNAシーケンスを用いた分子系統解析

上田昇平(信州大・理),小松貴(九州大・熱農研),Quek S.-P.(カリフォルニア大・総合生物),清水加耶(京都大院・人環),乾陽子(大教大・教育),市岡孝朗(京都大院・人環,地環学堂),市野隆雄(信州大・理,山岳研)

これまで我々は,熱帯アジアのアリ植物オオバギ属に共生するシリアゲアリ類のミトコンドリア(mt)DNAを用いた系統解析を行い,これらのアリが,働きアリの形態では判別できない17のmtDNA系統に分かれることを明らかにし,これらのmtDNA系統が特異的な地理分布と高い寄主特異性をもつことを証明した.しかし,Feldhaarら(2010)は,mtDNA系統と女王の形態タイプが一致しないことから,交雑の影響により,これらのmtDNA系統が種の分類を反映しない可能性を指摘した.

そこで,我々は,交雑の影響を受けにくい核DNA(9遺伝子,計5000bp)を用いて,熱帯アジアの広域に分布する18種のオオバギ属から採集したアリの分子系統樹を作成し,核DNA系統樹とmtDNA系統樹の一致性を検証した.系統レベルの一致性でみた場合,核DNAとmtDNA系統は一致しており,この結果は,核DNA系統間にmtDNAの浸透はない,すなわち交雑は起こっていないことを示す.一方,系統樹の一致性でみた場合,複数の核DNA系統を含む単系統群が多系統の関係にあるmtDNA系統によって構成されており,また,核DNA姉妹系統間のmtDNAの遺伝的分化の程度は合着シミュレーションを用いた推定値より高いことが示された.この結果は,核DNA系統群の分岐が起こる以前,共通祖先が複数のmtDNA系統を内包しており(祖先多型),そのmtDNA多型が各核DNA系統に引き継がれたことを示す.すなわち,核DNAとmtDNA系統の不一致の要因は種間交雑の影響ではなく不完全な系統ソーティングであったことになる.


日本生態学会