| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-172 (Poster presentation)
北米に生育するキク科ヨモギ属のsagebrushは、食害を受けると被食部位から揮発性物質(匂い)を放出し、その匂いを被害個体および近隣個体が受容することで食害に対する抵抗性を誘導する。この現象は『植物間コミュニケーション』として知られるが、sagebrushでは匂い受容の時期によって誘導される抵抗性の強さが異なり、展葉期に匂いを曝露した場合に最も食害が減少することが示されている。そこで、展葉期または花序形成期における匂い曝露がsagebrushの成長、種子繁殖および誘導抵抗性に与える影響について調査を行った。
まず、野外集団に生育する個体に対して展葉期(5月)または花序形成期(7月)に隣接個体の匂いを受容させた。その結果、花序形成期に匂いを受容した場合には、花序の乾燥重量が増加することが明らかになった。さらに、花序の主な植食者であるアブラムシの密度を比較し、誘導抵抗性の季節変動について調べたところ、展葉期に匂いに曝露した個体にくらべ、花序形成期に匂いに曝露した個体では、アブラムシが付着した花序の割合が減少した。また、アブラムシが付着した花序の割合と花序当たりの乾燥重量の間には負の相関関係が認められ、アブラムシの密度が少ない個体ほど花序の乾燥重量が増加する傾向にあった。さらに、匂いに曝露した直後のアブラムシ数の変化を測定した結果、匂いの有無でアブラムシ数の変化に違いはなく、アブラムシ密度の減少はアブラムシが匂いに対して忌避行動をとるからではなく、匂いを受容した花序の形質変化によると考えられた。以上のことから、花序形成期に匂いを受容した場合には、葉の抵抗性ではなく、花序の抵抗性が誘導されることが示唆された。