| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-013 (Poster presentation)
日本の河川や湖沼に生息するコイには、日本在来の系統とユーラシア大陸から人為的に導入された系統とが存在することが、近年のmtDNA調査により判明している。一方、日本のコイには伝統的に、体型で区別される2型すなわち野生型と飼育型が存在するとされてきた。体高が低くて円筒形に近いものが野生型、体高が高く側扁するものが飼育型と呼ばれており、野生型は日本在来系統であると信じられてきた。しかし、形態的な特徴を、遺伝的解析により認識される「系統」と対比させた検証は行われていない。
演者らはこれまでに、7つの核DNAマーカー(SNP)を用いて日本の自然水域に生息するコイの調査を行ってきた。その結果、日本の在来系統と導入系統は、国内のほとんどの場所において交雑が進んでいるが、琵琶湖の深部には例外的に、比較的純粋な在来系統からなる集団が残存していることが判明しつつある。そこで本研究では、日本在来系統の形態的特徴を、琵琶湖産の標本を用いて、遺伝データを考慮した上で明らかにすることを試みた。
標本は、琵琶湖の深部から浅い沿岸域にかけて採集された61個体と、飼育施設で系統保存されてきた5 個体を用いた。上述の7つのSNPを用いて解析したところ、解析個体の中には、ほぼ純粋な在来系統(多くが琵琶湖深部の個体)から、導入系統と判定されるもの(飼育施設や琵琶湖沿岸域の個体)まで、様々な交雑程度の個体が含まれていた。これらの標本について、内臓を含む内外諸形質の計数と計測を行い、交雑の程度を考慮して比較したところ、遺伝的に純粋な在来系統に近い個体ほど、いわゆる野生型の特徴を持つ傾向にあり、導入系統とは鰓耙数、尾柄部の長さおよび腸の長さ等の点で差異が見られることが判明した。