| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-015 (Poster presentation)
淡路島の中山間地の農家1軒が年間に行う農作業を網羅的に記録し,農家1軒が支える植物の多様性との関係を明らかにすることを目的として,2014年3月より,現地観察および聞き取りによって,兼業農家N氏の日々の農作業の内容と作業時間・位置を記録した.また, N氏の農地で,植物相調査と植生調査をおこなった.農作業および植物のデータは,農地内の立地環境別に整理した.立地環境は「耕作田」「放棄乾田」「放棄湿田」「前あぜ」「あぜ(平坦面)」「土水路」「未整備の畦畔」「造成斜面」「裾刈り草地」「ため池」「ため池の堤」などに区分した.N氏の農地は淡路島北部の丘陵地にあり,二次林に囲まれた浅い谷筋に広がっている.畦畔やため池などを合わせた総面積は約19,000m2で,大部分は圃場整備を受けていない.
2014年3月~翌年1月までの農作業時間は計320時間で,耕耘・田植え・稲刈りなどの生産に関わる農作業が129時間(40%),畦畔の草刈りや水路の泥さらえなどの環境整備が136時間(43%)であった.とくに草刈りは全作業時間の29%を占めた.農作業の内容や時期は,同じ立地環境内でも場所により不均質で,このことがハビタットの多様性を増幅させていた.植生調査の結果,立地環境ごとに群落の種組成は異なっていた.植物相調査の結果,淡路島の植物相の21%にも相当する87科341種の維管束植物が確認された.種数は「未整備の畦畔」で最も多かった.レッドリスト掲載種は,ヒロハトリゲモなど11種が確認され,その多くは水生または湿生植物で,土水路やため池に集中していた.一部の種の分布は,立地環境内の農作業の不均質な分布と関連があった.農作業(とくに様々な環境整備)によって増幅される複雑で多様なハビタットが農村の生物多様性を生み出していた.