| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-017 (Poster presentation)
集団内における個体レベルでの形態的、生態的多様化は、生態学的機会の変化に応じた資源利用や生物間相互作用の変化を通じて、その分化の度合や特徴が決定づけられると理論的に示唆されている。しかしながら、その実証例はいまだ乏しく、そのような個体レベルでの多様化や集団ニッチの特性を決定づけるこれらの個々の要因の重要性については十分理解されていない。淡水魚カマツカは、琵琶湖水系において多様な環境に生息し、異質なハビタットの間で遺伝的交流が行われている。また、琵琶湖内において大きな形態的変異がみられるが、そのような多様化が維持されるメカニズムや生態学的重要性については不明である。そこで本研究では、まず、さまざまな環境を含む琵琶湖の複数地点から得られた標本について形態形質を比較し、主に口部形質や体形の変異の特徴を定量化した。さらに、食性に関連する形質として、腸管の観察を行い、腸管の長さや形状と外部形態との関係を調べた。その結果、地点内の個体間で腸管長に大きな変異がみられ、さらに琵琶湖全体の傾向として、より体高の高い個体で体長に対する腸管の長さが比較的短く、巻き方がより単純な傾向があった。一般に魚類では、巻き方が単純で短い腸管はより肉食性の傾向を反映し、逆に長くて複雑な腸管は藻食/雑食性の傾向を反映することが知られている。これらのことから、琵琶湖のカマツカでみられる外部・内部形態の多様化は、摂餌機能の多様化を反映し、異質なハビタット間を移動することによる生態学的機会の変化に対して柔軟な応答を行うための重要な変異である可能性が示唆された。