| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-021 (Poster presentation)

河川希少種の陸への波及効果:カワシンジュガイ属はエゾアカガエルの越冬地を提供するか?

*三浦一輝(北海道大学大学院地球環境科学研究院),渡辺のぞみ(同),植村郁彦(同),根岸淳二郎(同)

異なる系間での物質移動の波及効果に関わる理解は生態学における重要な課題の一つである。河川希少生物の生息が河畔域に及ぼす影響を実証した研究は餌資源供給の観点に限られる。本研究では、陸上で食物網にも強い影響力を持つと予想されるエゾアカガエル(以下カエル)が水域(湿原河川)を越冬地として利用し、希少淡水二枚貝カワシンジュガイ属(以下貝)の生息が、有機物の堆積を物理的に促進し、カエルの越冬に重要な役割を果たすと仮説を立てた。カエルが陸→河川へ移動し、貝生息密度と越冬密度が正の相関を呈すると予測し、河川内の貝と有機物量の関係、カエルの季節移動の解明を目的とした。

調査は別寒辺牛川のA支流とその河畔域で8・10・12月に行った。A支流の上・中・下流サイトに各50m以上の調査区を設定した。各区で貝の生息密度、カエルの越冬密度、有機物堆積量を定量化し、水深と流速を測定した。カエルの越冬環境の最適条件モデルを構築した。上、下流サイトに隣設する森林―湿地―川岸においてルートセンサス法により各季節に個体数を計数した。10月下旬に景観境界にフェンストラップを設置し移動方向を調べた。

結果、12月の河川上流からカエルが多数確認され、越冬密度は50mm以上の枯葉堆積量と正の相関を示し、中・下流では区間平均での堆積量が上流より少ない傾向にあった。各季節、各景観の個体数は、10月に全景観でカエルが多数確認されたが、秋には森林で少なく川岸で多くなる傾向が示され、12月の陸上の活動はなかった。また、晩秋期のカエルの移動方向は湿地と河川方向に偏っていた。河川内の50mm以上の枯葉の堆積場がカエルの越冬環境として重要であり、カエルは森林→湿地→河川を季節的に移動して河川に定着している可能性が高い。貝の機能に関する仮説は支持されなかった。


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